古玩文具の魅力⑦
今回の資料は、用途としては匙を使って硯に水を移す道具です。硯に水を入れるといえば、最近では、手軽なものとして、小さなペットボトルや、プラスチックのスポイトがよく使われています。
少し上等になると、小さな二つの穴が開いた「水滴」や、急須を小さくしたような「水注」が使われます。これらは実際手にもって、流水や溜水に沈めて器内に水を貯え、本体を傾けて硯に水を注ぎます。
「水盂」とは、本体を置いたまま、匙を使って水を移すものを言います。
中国では宋(そう)時代に磁器の生産に飛躍的な進歩がありました。皇帝が磁器を愛好したため、献上品を作るために、多くの窯が競って器形や色彩の優れたものを作りました。
磁器は焼成温度が高く、指で弾くと金属質な音がします。また表面のガラス釉が冷めるときにできる「貫入(かんにゅう)」という大変美しい罅(ひび)割れが入りますが、多くの完成品の中から僅かな優品だけを残し、他すべてを壊してしまうため、現存する優品は極めて少なく、後の時代に模造品(倣品)として作られたものが多く伝わっています。
今回紹介する水盂は、特に貫入が美しいとされる「哥窯(かよう)」という窯の倣品です。哥窯は現在でも窯が浙江省(せっこうしょう)のどこにあったのかさえ判っていません。また本物といえるものは北京と台北の故宮博物院にわずか10点ほどしか伝わっていません。倣品といえども、伝説ともいえる「哥窯」を模した、上品な作品は人気が高く、本作もたいへん良くできた作品だと思います。
この水匙は、直径10㎝ 高さ7cm 重さ230gの小さな器ですが、濃淡二重の貫入が入ったうす水色のガラス釉が美しく、ふっくらとした丸みとやわらかな曲線が特徴です。手に取ると何とも言えない幸福感を味わうことが出来ます。古玩文具の愉(たの)しみは、まさにこの幸福感だといえるでしょう。
手前の匙は真鍮(しんちゅう)製で、柄の先端は鵞鳥(がちょう)の頭部がデザインされています。これは王羲之(おうぎし)の愛鵞癖にちなんだものです。(教師月報 2018年10月号)
作品名 | 倣哥窯水盂と水匙 |
ふりがな | ほうかようすいう と みずさじ |
作者 | 不詳 |
国名 | 中国 |
制作年 | 清時代 |
寸法 | 水盂;直径10cm、高さ7cm、重さ230g |
目録番号 | CT-0123 |
古玩文具の魅力⑦
今回の資料は、用途としては匙を使って硯に水を移す道具です。硯に水を入れるといえば、最近では、手軽なものとして、小さなペットボトルや、プラスチックのスポイトがよく使われています。
少し上等になると、小さな二つの穴が開いた「水滴」や、急須を小さくしたような「水注」が使われます。これらは実際手にもって、流水や溜水に沈めて器内に水を貯え、本体を傾けて硯に水を注ぎます。
「水盂」とは、本体を置いたまま、匙を使って水を移すものを言います。
中国では宋(そう)時代に磁器の生産に飛躍的な進歩がありました。皇帝が磁器を愛好したため、献上品を作るために、多くの窯が競って器形や色彩の優れたものを作りました。
磁器は焼成温度が高く、指で弾くと金属質な音がします。また表面のガラス釉が冷めるときにできる「貫入(かんにゅう)」という大変美しい罅(ひび)割れが入りますが、多くの完成品の中から僅かな優品だけを残し、他すべてを壊してしまうため、現存する優品は極めて少なく、後の時代に模造品(倣品)として作られたものが多く伝わっています。
今回紹介する水盂は、特に貫入が美しいとされる「哥窯(かよう)」という窯の倣品です。哥窯は現在でも窯が浙江省(せっこうしょう)のどこにあったのかさえ判っていません。また本物といえるものは北京と台北の故宮博物院にわずか10点ほどしか伝わっていません。倣品といえども、伝説ともいえる「哥窯」を模した、上品な作品は人気が高く、本作もたいへん良くできた作品だと思います。
この水匙は、直径10㎝ 高さ7cm 重さ230gの小さな器ですが、濃淡二重の貫入が入ったうす水色のガラス釉が美しく、ふっくらとした丸みとやわらかな曲線が特徴です。手に取ると何とも言えない幸福感を味わうことが出来ます。古玩文具の愉(たの)しみは、まさにこの幸福感だといえるでしょう。
手前の匙は真鍮(しんちゅう)製で、柄の先端は鵞鳥(がちょう)の頭部がデザインされています。これは王羲之(おうぎし)の愛鵞癖にちなんだものです。(教師月報 2018年10月号)