墨盒

ぼくごう
     

古玩文具の魅力⑩

「盒」(はこ)という漢字は蓋つきの入れ物を指し、「墨盒」とは、墨汁を入れておく容器のことです。その歴史は、清(しん)朝の嘉慶・道光年間(19世紀頃)に始まるとされ、言い伝えによると、官吏登用試験である科挙(かきょ)を受験する夫のために、妻が紅容れの小箱に墨汁を詰め、重い硯(すずり)の代わりに持たせたことが起源とされます。その後墨盒は、素材や装飾に工夫が凝らされ、すぐに揮毫(きごう)に用いることができる便利な文具として、文人たちから文房四宝とともに愛好されるようになりました。その素材は、一般的に真鍮(しんちゅう)や白銅(はくどう)が用いられ、形状は、正方形・長方形・円形・楕円形・多角形・花形など多種多様で、多くの場合、彫金や鋳造によって表面に精緻な模様が施されていました。
ご紹介する墨盒は白銅製で、やや丸みを帯びた正方形を呈しており、蓋の上面には、約11㎝四方のなかに5㎜ほどの字粒で王羲之(おうぎし)の「蘭亭序」の一節140文字が彫られています。また、蓋の内側には、薄く削り出された石板がはめ込まれていますが、これは墨汁がなくなった時に硯として使われたものです。そして白銅製の本体内側は、図版では分かりにくいですが、薄い銅版製になっています。これは、銅に墨汁の腐敗を防ぐ効果があるとされるからで、今でも墨池に10円玉を入れることがあるのと同じ理屈です。さらに内部には、黒い綿のカスが残っており、これに墨汁を染み込ませていたようです。
墨盒は、我々にはなじみの薄いものですが、装飾性と実用性を兼ね備えた身近な文具として、中国書法文化を縁の下から支えていたのでしょう。(教師月報 2019年1月号)

                                           
作品名墨盒
ふりがなぼくごう
作者不詳
国名中国
制作年不詳
寸法4.9×10.8×10.8cm
目録番号CD-0047

古玩文具の魅力⑩

「盒」(はこ)という漢字は蓋つきの入れ物を指し、「墨盒」とは、墨汁を入れておく容器のことです。その歴史は、清(しん)朝の嘉慶・道光年間(19世紀頃)に始まるとされ、言い伝えによると、官吏登用試験である科挙(かきょ)を受験する夫のために、妻が紅容れの小箱に墨汁を詰め、重い硯(すずり)の代わりに持たせたことが起源とされます。その後墨盒は、素材や装飾に工夫が凝らされ、すぐに揮毫(きごう)に用いることができる便利な文具として、文人たちから文房四宝とともに愛好されるようになりました。その素材は、一般的に真鍮(しんちゅう)や白銅(はくどう)が用いられ、形状は、正方形・長方形・円形・楕円形・多角形・花形など多種多様で、多くの場合、彫金や鋳造によって表面に精緻な模様が施されていました。
ご紹介する墨盒は白銅製で、やや丸みを帯びた正方形を呈しており、蓋の上面には、約11㎝四方のなかに5㎜ほどの字粒で王羲之(おうぎし)の「蘭亭序」の一節140文字が彫られています。また、蓋の内側には、薄く削り出された石板がはめ込まれていますが、これは墨汁がなくなった時に硯として使われたものです。そして白銅製の本体内側は、図版では分かりにくいですが、薄い銅版製になっています。これは、銅に墨汁の腐敗を防ぐ効果があるとされるからで、今でも墨池に10円玉を入れることがあるのと同じ理屈です。さらに内部には、黒い綿のカスが残っており、これに墨汁を染み込ませていたようです。
墨盒は、我々にはなじみの薄いものですが、装飾性と実用性を兼ね備えた身近な文具として、中国書法文化を縁の下から支えていたのでしょう。(教師月報 2019年1月号)

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