山水刻文鎮

さんすいこくぶんちん
     

よく磨き込まれた黒檀(こくたん)に線刻で山水画を施した象牙の板を象嵌(ぞうがん)した文鎮です。上面が膨らんだかまぼこ型をしています。
二本の長さはわずかに異なりますが180 ㎜ほどの長さで、中心線の膨らんだ厚みは13 ㎜、両側の低い部分の厚みは9 ㎜です。これは手に触れたときの柔らかさや、これに手を載せて手紙などを書く場合に、肌に触れるのに心地よいカーブをつくっているのです。黒檀の材質の滑らかさは、紙の上を滑らせたときに、紙にダメージを与えないために大切な機能です。
重さは文鎮としては軽い方でいずれも86gです。この文鎮は巻紙などで手紙を書く場合に、紙の左右に置いて使います。象牙に線刻された山水画が縦の構図なのはそのためです。
象牙には風雅な文人趣味の山水画が細かな筆づかいで線刻されています。2本の文鎮を対にした場合に、落款の位置が右側に来るのが「碧梧清暑(へきごせいしょ)」と題が彫られている、夏から秋にかけての風景を題材にした山水画です。画面下へ流れてくる川のほとりの水亭に人影が見えます。2本の碧梧(アオギリ)がそびえるはるか向こうには、涼しげに霞んだ遠山に向かって数羽の鳥が飛んでいく姿が描かれます。
左側の「平沙落雁(へいさらくがん)」は瀟湘(しょうしょう)八景の中の一つとして有名な句です。老松が生い茂る断崖の道を陰士が下って行く先に、多くの雁が鍵の手になって対岸の干潟に降り下っていく様子が見えます。2本対で使用する文鎮ですから、これは晩夏から秋にかけての季節のお便り用に使われたのかもしれません。季節の変わり目に互いに手紙をやり取りする友がいて、日常の中に書があり、小さな出来事を伝えるために、心を込めて手紙にしたためる。手近にある文房具は、道具としてだけではなく、持ち主の心を豊かにするものなのです。(教師月報 2019年11月号)

                                           
作品名山水刻文鎮
ふりがなさんすいこくぶんちん
作者不詳
国名中国
制作年不詳
寸法左(平沙落雁):18.0×2.8×1.3cm/右(碧梧清暑):18.2×2.8×1.1cm 
目録番号CT-0096

よく磨き込まれた黒檀(こくたん)に線刻で山水画を施した象牙の板を象嵌(ぞうがん)した文鎮です。上面が膨らんだかまぼこ型をしています。
二本の長さはわずかに異なりますが180 ㎜ほどの長さで、中心線の膨らんだ厚みは13 ㎜、両側の低い部分の厚みは9 ㎜です。これは手に触れたときの柔らかさや、これに手を載せて手紙などを書く場合に、肌に触れるのに心地よいカーブをつくっているのです。黒檀の材質の滑らかさは、紙の上を滑らせたときに、紙にダメージを与えないために大切な機能です。
重さは文鎮としては軽い方でいずれも86gです。この文鎮は巻紙などで手紙を書く場合に、紙の左右に置いて使います。象牙に線刻された山水画が縦の構図なのはそのためです。
象牙には風雅な文人趣味の山水画が細かな筆づかいで線刻されています。2本の文鎮を対にした場合に、落款の位置が右側に来るのが「碧梧清暑(へきごせいしょ)」と題が彫られている、夏から秋にかけての風景を題材にした山水画です。画面下へ流れてくる川のほとりの水亭に人影が見えます。2本の碧梧(アオギリ)がそびえるはるか向こうには、涼しげに霞んだ遠山に向かって数羽の鳥が飛んでいく姿が描かれます。
左側の「平沙落雁(へいさらくがん)」は瀟湘(しょうしょう)八景の中の一つとして有名な句です。老松が生い茂る断崖の道を陰士が下って行く先に、多くの雁が鍵の手になって対岸の干潟に降り下っていく様子が見えます。2本対で使用する文鎮ですから、これは晩夏から秋にかけての季節のお便り用に使われたのかもしれません。季節の変わり目に互いに手紙をやり取りする友がいて、日常の中に書があり、小さな出来事を伝えるために、心を込めて手紙にしたためる。手近にある文房具は、道具としてだけではなく、持ち主の心を豊かにするものなのです。(教師月報 2019年11月号)

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