楷書曾幾詩軸

かいしょそうきしじく
     

清末から民国初期にかけての中国書法界では、石碑や青銅器などの文字を学んで書作に反映させる「碑学派」が主流であり、特に楷書では、北魏様式が流行していました。今回紹介する作家は、そのような時勢にもかかわらず独自の立場を貫き、晋唐の書、とりわけ初唐の三大家の一人である褚遂良(596~658)の楷書に心酔して忠実にその書風を再現した人物です。

趙世駿(?~1928)は、字を声伯、号を山木といいました。書は鍾繇(151~230)や王羲之(303?~361?)を学んだのち、中年以降は褚遂良書法(=褚法)を専門的に修めました。その成果は、真筆に迫ると評されています。

では、今回の作品を見てみましょう。罫線の入った用紙に、南宋時代の詩人である曾幾(1084~1166)作の六言絶句三首が五行にわたって整然と揮毫されています。その書を仔細に観察すると、全体的に細身の線ながら肥痩の変化があり、特に横画に注目すると、やや太い起筆から勢いある細身の送筆が右肩上がりに進み、一転して右下へ押さえ込む太い終筆で結ばれています。線質には張りがあり、たとえば転折部分は折れることなく弧状を呈しています。ハライは力強く、隷書の波磔をおもわせます。字の形のとり方も含め、褚遂良書法に瓜二つの出来ばえとなっており、真筆に迫るという評価を裏付ける作品といえましょう。
趙世駿は、褚法という当時の風潮にそぐわない書風を貫いたことから、その名はあまり知られてはいません。しかし、確かな技量をもった書家として再評価されるべき人物でしょう。(漢字部 資料紹介 2022年2月号)

                                           
作品名楷書曾幾詩軸
ふりがなかいしょそうきしじく
作者趙世駿
国名中国
制作年清末~民国
寸法81.0×31.3cm
目録番号4A-3748

清末から民国初期にかけての中国書法界では、石碑や青銅器などの文字を学んで書作に反映させる「碑学派」が主流であり、特に楷書では、北魏様式が流行していました。今回紹介する作家は、そのような時勢にもかかわらず独自の立場を貫き、晋唐の書、とりわけ初唐の三大家の一人である褚遂良(596~658)の楷書に心酔して忠実にその書風を再現した人物です。

趙世駿(?~1928)は、字を声伯、号を山木といいました。書は鍾繇(151~230)や王羲之(303?~361?)を学んだのち、中年以降は褚遂良書法(=褚法)を専門的に修めました。その成果は、真筆に迫ると評されています。

では、今回の作品を見てみましょう。罫線の入った用紙に、南宋時代の詩人である曾幾(1084~1166)作の六言絶句三首が五行にわたって整然と揮毫されています。その書を仔細に観察すると、全体的に細身の線ながら肥痩の変化があり、特に横画に注目すると、やや太い起筆から勢いある細身の送筆が右肩上がりに進み、一転して右下へ押さえ込む太い終筆で結ばれています。線質には張りがあり、たとえば転折部分は折れることなく弧状を呈しています。ハライは力強く、隷書の波磔をおもわせます。字の形のとり方も含め、褚遂良書法に瓜二つの出来ばえとなっており、真筆に迫るという評価を裏付ける作品といえましょう。
趙世駿は、褚法という当時の風潮にそぐわない書風を貫いたことから、その名はあまり知られてはいません。しかし、確かな技量をもった書家として再評価されるべき人物でしょう。(漢字部 資料紹介 2022年2月号)

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