源氏物語「鈴虫」

げんじものがたり・すずむし
      軸-175

紫式部が著した源氏物語は、世界最古の長編恋愛小説ともいわれ、平安時代頃にはすでに読まれていました。源氏物語絵巻の成立によって、各場面を絵で見ることでより親しみを持ち、また、詞書を手習いの手本に用いるようにもなりました。絵巻の一部分は、二千円札の裏側にも採用されています。書作品としては、名筆と知られた伏見天皇の作品が有名です。

この巻子は、当館創立者・原田観峰の筆により、巻三十八「鈴虫」の詞書を抜書したものです。その場面は、源氏の住まいである六条院において、出家の意志を固めた妻の女三宮との鈴虫の宴と、冷泉院からの宴の誘いの和歌の二種類です。連綿体を用いて柔らかい筆遣いで、渇筆を余り用いていません。漢字かな交じりの書に近く、お手本としての作品作りを意識した書き方です。

※この作品は、2024年12月までの限定公開です

軸-175
                                               
作品名源氏物語「鈴虫」
ふりがなげんじものがたり・すずむし
作者原田観峰
国名日本
制作年1970年代
寸法33.7×212.7cm
目録番号軸-175
釈文十五夜の夕暮に、仏の御前に宮おはして、端近う眺めたまひつつ念誦したまふ。若き尼君たち二、三人、花奉るとて鳴らす閼伽坏の音、水のけはひなど聞こゆる、さま変はりたるいとなみに、そそきあへる、いとあはれなるに、例の渡りたまひて、 「虫の音いとしげう乱るる夕べかな」 とて、われも忍びてうち誦じたまふ阿弥陀の大呪、いと尊くほのぼの聞こゆ。げに、声々聞こえたる中に、鈴虫のふり出でたるほど、はなやかにをかし。 「秋の虫の声、いづれとなき中に、松虫なむすぐれたるとて、中宮の、はるけき野辺を分けて、いとわざと尋ね取りつつ放たせたまへる、しるく鳴き伝ふるこそ少なかなれ。名には違ひて、命のほどはかなき虫にぞあるべき。 心にまかせて、人聞かぬ奥山、はるけき野の松原に、声惜しまぬも、いと隔て心ある虫になむありける。鈴虫は、心やすく、今めいたるこそらうたけれ」  などのたまへば、宮、 「おほかたの秋をば憂しと知りにしをふり捨てがたき鈴虫の声」 と忍びやかにのたまふ。いとなまめいて、あてにおほどかなり。 「いかにとかや。いで、思ひの外なる御ことにこそ」とて、 「心もて草の宿りを厭へどもなほ鈴虫の声ぞふりせぬ」 冷泉院より御消息あり。御前の御遊びにはかにとまりぬるを口惜しがりて、左大弁、式部大輔、また人びと率ゐて、さるべき限り参りたれば、大将などは六条の院にさぶらひたまふ、と聞こし召してなりけり。 雲の上をかけ離れたるすみかにも もの忘れせぬ秋の夜の月

紫式部が著した源氏物語は、世界最古の長編恋愛小説ともいわれ、平安時代頃にはすでに読まれていました。源氏物語絵巻の成立によって、各場面を絵で見ることでより親しみを持ち、また、詞書を手習いの手本に用いるようにもなりました。絵巻の一部分は、二千円札の裏側にも採用されています。書作品としては、名筆と知られた伏見天皇の作品が有名です。

この巻子は、当館創立者・原田観峰の筆により、巻三十八「鈴虫」の詞書を抜書したものです。その場面は、源氏の住まいである六条院において、出家の意志を固めた妻の女三宮との鈴虫の宴と、冷泉院からの宴の誘いの和歌の二種類です。連綿体を用いて柔らかい筆遣いで、渇筆を余り用いていません。漢字かな交じりの書に近く、お手本としての作品作りを意識した書き方です。

※この作品は、2024年12月までの限定公開です

KAMPO MUSEUM IN SHIGA ©︎ All Rights Reserved