美人図

びじんず
     

今月号は、団扇を持つ美しい女性を描いた、初夏の季節にぴったりの作品です。

この作品は、これまでご紹介した中国・清時代の美人画とは趣が異なっています。特徴的なのは、目の周りに施されたお化粧や口紅のあざやかな色遣いで、右上方に視線を向ける力強い眼の表現、透明感のある肌艶は、まるで写真のような錯覚を覚えさせます。

女性のモデルについては、はっきりとは分かりません。しかしながら、賛の2句目にある「漫(みだり)に団扇を将て共に徘徊す」は、王昌齢(おうしょうれい)「長信秋詞(ちょうしんしゅうし)」にある句を取ったもので、この詩のモデルである班婕妤(はん しょうよ)を描いたものと考えられます。班婕妤は中国・前漢の成帝(せいてい)の寵愛を受けましたが、やがて他の女性の恨みを買ったため、自ら長信宮(ちょうしんきゅう)という宮殿に退きました。王昌齢の詩は、孤独な秋の夜を過ごし失恋の悲しみを嘆く班婕妤について詠んだものですが、この絵では、画家が「たまたま見つけた」春の花(おそらく藤か)を団扇に描いています。班婕妤は、悲恋を象徴する女性として多く描かれますが、秋ではなく春の花を描くことで、少しでもその悲しみを和らげてあげようとしたのでしょうか。もしかすると、女性の顔に施されたお化粧は、彼女の涙を隠すためのものかもしれません。

画家の徐寄萍(1919~1989)は、出身地である上海において清時代末期に流行した、広告宣伝を目的とした版画の名手として知られた人物です。中華人民共和国解放前後において、女性をモデルとした広告画のほか、国内の政治動向に沿った広告画などを描きました。後に版画家として大成する画家の若かりし頃の作品で、若干25歳でありながら、卓越した技術を持っていたことがうかがえます。(かな部 資料紹介 2021年6月号)

                                           
作品名美人図
ふりがなびじんず
作者徐寄萍
国名中国
制作年民国33年(1944)
寸法117.0×36.5cm
目録番号5a-0378

今月号は、団扇を持つ美しい女性を描いた、初夏の季節にぴったりの作品です。

この作品は、これまでご紹介した中国・清時代の美人画とは趣が異なっています。特徴的なのは、目の周りに施されたお化粧や口紅のあざやかな色遣いで、右上方に視線を向ける力強い眼の表現、透明感のある肌艶は、まるで写真のような錯覚を覚えさせます。

女性のモデルについては、はっきりとは分かりません。しかしながら、賛の2句目にある「漫(みだり)に団扇を将て共に徘徊す」は、王昌齢(おうしょうれい)「長信秋詞(ちょうしんしゅうし)」にある句を取ったもので、この詩のモデルである班婕妤(はん しょうよ)を描いたものと考えられます。班婕妤は中国・前漢の成帝(せいてい)の寵愛を受けましたが、やがて他の女性の恨みを買ったため、自ら長信宮(ちょうしんきゅう)という宮殿に退きました。王昌齢の詩は、孤独な秋の夜を過ごし失恋の悲しみを嘆く班婕妤について詠んだものですが、この絵では、画家が「たまたま見つけた」春の花(おそらく藤か)を団扇に描いています。班婕妤は、悲恋を象徴する女性として多く描かれますが、秋ではなく春の花を描くことで、少しでもその悲しみを和らげてあげようとしたのでしょうか。もしかすると、女性の顔に施されたお化粧は、彼女の涙を隠すためのものかもしれません。

画家の徐寄萍(1919~1989)は、出身地である上海において清時代末期に流行した、広告宣伝を目的とした版画の名手として知られた人物です。中華人民共和国解放前後において、女性をモデルとした広告画のほか、国内の政治動向に沿った広告画などを描きました。後に版画家として大成する画家の若かりし頃の作品で、若干25歳でありながら、卓越した技術を持っていたことがうかがえます。(かな部 資料紹介 2021年6月号)

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