琴形臂擱

きんけいひかく
     

臂擱(ひかく)は、秘閣とも書き、腕枕(わんちん)とも呼ばれます。これは揮毫(きごう)の際、手や袖口が乾いていない墨に付いて汚れるのを防ぐために、筆を持つ手首の下にあてがう道具で、名前の臂擱も「臂(うで)〔=腕〕擱(お)き」という意味です。臂擱はまた、手の汗が紙に付のを防ぎますし、何より字粒の細かい楷書で多くの字を書くときに、腕を固定して疲れにくくする効果もあります。臂擱は、明(みん)代ごろに考案されたといわれています。素材は竹や木が多く、陶製のものもしばしば見られます。また、高価なものでは、玉製や象牙製もありました。
今回ご紹介する臂擱は木製で、琴(きん)という楽器の形をしています。琴は、日本のもの〔正確には筝(そう)〕と違い、小ぶりな七絃の楽器で、中国の文人がたしなむべき四つの芸事である「琴棋書画(きんきしょが)」の一つに数えられています。そのため、身近な文具に琴のデザインを取り入れることは、文人にとって自然なことだったのでしょう。本品は長さ約30㎝、幅は太いところで約5cm、表面には、絃を張る部位と、徽(き)と呼ばれる13個の音階を示す目印が、裏面には、音の響きをよくするためのくぼみが2か所デザインされています。また、側面から見ると、全体的に湾曲しており、紙とは頭と尾の部分だけが接するようになっています。使用者は揮毫の際、手をこれに触れさせることで、琴を奏でるさまをイメージし、あるいはその音色を思い浮かべたのかも知れません。臂擱もまた、実用性と装飾性を兼ね備えた文具といえましょう。(教師月報2019年3月)

                                           
作品名琴形臂擱
ふりがなきんけいひかく
作者不詳
国名中国
制作年不詳
寸法長さ30cm、幅5cm
目録番号CT-0092

臂擱(ひかく)は、秘閣とも書き、腕枕(わんちん)とも呼ばれます。これは揮毫(きごう)の際、手や袖口が乾いていない墨に付いて汚れるのを防ぐために、筆を持つ手首の下にあてがう道具で、名前の臂擱も「臂(うで)〔=腕〕擱(お)き」という意味です。臂擱はまた、手の汗が紙に付のを防ぎますし、何より字粒の細かい楷書で多くの字を書くときに、腕を固定して疲れにくくする効果もあります。臂擱は、明(みん)代ごろに考案されたといわれています。素材は竹や木が多く、陶製のものもしばしば見られます。また、高価なものでは、玉製や象牙製もありました。
今回ご紹介する臂擱は木製で、琴(きん)という楽器の形をしています。琴は、日本のもの〔正確には筝(そう)〕と違い、小ぶりな七絃の楽器で、中国の文人がたしなむべき四つの芸事である「琴棋書画(きんきしょが)」の一つに数えられています。そのため、身近な文具に琴のデザインを取り入れることは、文人にとって自然なことだったのでしょう。本品は長さ約30㎝、幅は太いところで約5cm、表面には、絃を張る部位と、徽(き)と呼ばれる13個の音階を示す目印が、裏面には、音の響きをよくするためのくぼみが2か所デザインされています。また、側面から見ると、全体的に湾曲しており、紙とは頭と尾の部分だけが接するようになっています。使用者は揮毫の際、手をこれに触れさせることで、琴を奏でるさまをイメージし、あるいはその音色を思い浮かべたのかも知れません。臂擱もまた、実用性と装飾性を兼ね備えた文具といえましょう。(教師月報2019年3月)

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